「『ジョジョ』とは何か?」を
徹底的に分析
アニメでの完全再現に込められた
想いとは?

「ジョジョを科学する」
という発想で原作を再現

ジョジョアニメを制作するにあたり、ワーナー ブラザース ジャパンの大森啓幸プロデューサーからの要求は「ジョジョを作る」というごくシンプルなもの。それを受け、監督の津田尚克が掲げたスローガンは「ジョジョを科学する」だった。

原作の特徴であり、ジョジョをジョジョたらしめる要素を全て拾い上げ、アニメーションで再現する方法を模索。「メメタァ」や「ゴゴゴゴゴ」といった独特な擬音、個性的なポージング、「そこにシビれる! あこがれるゥ!」といった舞台的な台詞回しなど、誰もがイメージするものはもちろんのこと、集中線の使用や画面内のコマ割り演出などもアニメで徹底的に再現した。

1stシーズンから演出を務める加藤敏幸は「不気味さを演出するために、原作では霧や煙のような名状しがたい気体が渦を巻いている描写がけっこうあるんです。通常であればこれらはCGで処理してしまうんですが、そこは原作そっくりに手書きで再現しています。ほかにもキャラクターの不穏さを表現したい場合に、顔全体にトーンを貼って暗くして、目だけに光を当てるといったサスペンス的手法も原作通りに取り入れています」と語っており、スタッフ陣のこだわりが随所に見て取れる。

場面カット1
1st Season第4話「波紋疾走(オーバードライブ)」より
顔の半分が影で覆われるなか、妖しく光るディオの目が印象的なカット

「シーン特色」はアニメならではの
醍醐味

映像演出で特筆すべきは、「シーン特色」や「カット特色」と言われるカラー表現だ。ジョジョファンならご存知の通り、ジョジョのカラーリングには決まった色が存在しない。荒木飛呂彦が描くカラー原稿は、同じキャラクターでもそのときどきによって色がガラリと変化することはよくあることで、むしろ決まった色に捕らわれないことがひとつの個性となっている。

とは言え、基本的にモノクロで描かれる漫画原稿とは違い、アニメーションはつねにフルカラー。シーンごとに色がコロコロ変化するわけにはいかない。そこで津田たちは、全体のベースとなる基本色を決めたうえで、展開に応じて色を変化させる「シーン特色」や「カット特色」を採用。キャラクターの心情が大きく揺さぶられたり展開の山場などで使用され、アクセントとして効果的に機能している。アニメーションの特性を存分に生かした発想で、大きな強みとして4thシーズンまで踏襲された。

場面カット2
2nd Season第2話「裁くのは誰だ!?」より
「特色」のシーンでは制服の色や髪の色などが変化。シーズンごとに表現の仕方は異なる

キャラデザはファンがイメージする
中央値を模索

1stシーズンのビジュアル構築において、とりわけ試行錯誤したのがキャラクターデザインだ。というのも、初期の荒木飛呂彦が描くキャラクターはみな筋肉隆々で画風も劇画に近い。現代の流行とは言い難く、このギャップをどう埋めるかが課題となった。そこで制作チームは、多くのジョジョファンがイメージするキャラクター造形が原作第3部から第5部であることから、その中央値を1stシーズンに還元することで、よりファンの心象イメージに近いキャラクターデザインを作り上げていった。こうして出来上がったキャラクターたちは、初期の荒木キャラならではの濃い雰囲気も残しつつ、全体的にマイルドでカジュアルな造形に落ち着いている。

場面カット3
1st Season第6話「あしたの勇気」より
筋肉美はしっかりと強調しつつも、フォルムはややスリムになっている

19世紀から現代まで! 美術の変遷

部ごとに時代や舞台がガラリと変化するのもジョジョシリーズの特徴だけに、美術や設定作業も大変な苦労を伴った。1stシーズン「ファントムブラッド」は19世紀末のイギリス、「戦闘潮流」は第二次世界大戦前のアメリカやヨーロッパが舞台となるが、これらは原作でも現実に即した形では描かれていないため、アニメにおいてもある意味ファンタジーとして描かれた。しかし続く2ndシーズン「スターダストクルセイダース」となると、時代は1980年代で、日本からエジプトに至るさまざまな国と地域が舞台となる。建築物だけでなく、行き交う人々の民族や服装も多岐にわたるため、美術班だけなくサブキャラクターデザインの負担は相当なものになったという。

またプロップ(小物設定)についてもこだわっており、例えば第37-38話の「地獄の門番ペット・ショップ」の脚本と絵コンテを担当した鈴木は、原作に登場するポルシェの車種について、通称・イエローバードと呼ばれる限定生産モデルなのではないかと推測し、設定に取り入れている。「この時の敵スタンドが鳥で、そこにポルシェが突っ込んでくるので、おそらく当時の荒木先生もイエローバードを想定していたんじゃないかと思ったんです。まあ完全に想像なんですが(笑)」(鈴木)。正直なところ、原作に数コマ登場しただけの車についてここまで考察を広げる必要はないのだが、それこそがジョジョ愛がなせるこだわりだろう。

3rdシーズン「ダイヤモンドは砕けない」はこれまでとは一変して、最初から最後まで架空の街・杜王町が舞台となる。監督を務めた加藤は原作をもとに精密な杜王町の地図を作り、各キャラクターの家や学校までの通学路、所要時間など、作中で行われる移動のルートを細かく計算。「杜王町は第4部のもうひとつの主役だと思っているので、できるだけ実在感を出したかったんです。誰もが馴染みのある日本の片田舎の風景と、その裏で起こっている凶悪な殺人事件という対比を強調するためにも、町の作り込みには時間をかけました」(加藤)。

4thシーズン「黄金の風」の舞台は2001年のイタリア。総監督の津田、監督の木村泰大、髙橋秀弥らは2017年7月にロケハンのためイタリアへ渡航。「聖地巡礼をしやすくしようというのは最初から目標にしていた」という木村の言葉とおり、作中に登場するほとんどの場所を突き止めた。この綿密なロケハン作業の成果はフィルムに空気感としてしっかりと閉じ込められており、視聴者はジョルノたちとともにイタリア全土を旅行したような気分になれる。

場面カット4
2nd Season第16話「恋人(ラバーズ)その1」より
2ndシーズンでは世界中のさまざまな国や民族、文化が描かれた

作画における「ジョジョイズム」の確立

デイヴィッドプロダクションの笠間寿高プロデューサーは、最初にジョジョのアニメ化を聞いた際、「この絵柄を動かせるアニメーターがどれだけいるだろうか?」と不安を覚えたという。たしかにデイヴィッドプロダクションは濃い絵柄を動かすことが得意なスタジオではあるが、それでもここまではっきりと筋肉や骨格が強調された作品はこれまでに経験がなく、スタジオとしても大きな挑戦だった。1stシーズンでシリーズディレクターを務めた鈴木健一は「作画に関しては最初から明確な完成イメージはありましたが、実際には描きながらこなれていくしかありませんでした」と当時の状況を振り返る。

また加藤は序盤の作画作業はとくに重量感にこだわったと語る。「第2話のラグビーシーンで、ジョナサンが3人の選手を引きずりながらも前進をやめないというシーンがあるんですが、ここは力強い青年に成長したジョナサンの姿を印象づける狙いがあるんです。とは言えジョナサンはあくまで人間であり、のちに吸血鬼となって人間を超越するディオとは根本的に肉体の強度が違います。つまりここでは人間としての限界も同時に示す必要があり、そのためには3人の男を背負ったときの重みをしっかりと表現しないといけない。身体のあちこちに高い荷重がかかることで生まれる「うねり」が大切で、そこはかなり細かく修正指示を出した記憶があります」(加藤)。

このように、カットごとにコンセプトを丁寧に伝えていくことでじょじょにノウハウが蓄積していき、しだいに作画は安定していった。1stシーズンから作画を担当しているアニメーター・石本峻一は「ジョジョシリーズは基本的に濃い作画が特徴で、最初は手探りでしたが、作画班のあいだではしだいに「濃さ合戦」が繰り広げられていました」と当時の作画状況を語る。

場面カット5
2nd Season第48話「遥かなる旅路 さらば友よ」より
2ndシーズンの最終決戦は、『ジョジョアニメ』史上最高峰の「濃い作画」

キャラクター芝居は「舞台」に近い!?

ジョジョにおけるキャラクターの芝居は、必ずしも常識に縛られない。我々は日常生活のなかで作中のような独特なポージングをすることはないし、「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」といったセリフを言う機会もないのだ。ではジョジョにおけるキャラクター芝居とはなにかと言えば、それはむしろ演劇に近いという。鈴木は「舞台上のキャラクター配置や光源といったルールはありつつ、荒木先生の決めゴマの魅力を最大限に発揮するためには、ときには大きく逸脱させることもあります。突然照明を変えたりキャラクターにズバッとピンスポットを当てたり。歌舞伎でいうところの"見得"のイメージですね」と話す。このことを加藤は「舞台芝居」と表現しており、言葉は違えど同じイメージを共有していることがうかがえる。

一方で、ジョジョのバトル描写について、津田は「プロレス」と言い表している。「じつはジョジョのキャラってほとんど悩まないんです。そこはひとつのポイントで、リングに上がったプロレスラーは、なぜ自分が戦っているのかを悩んだりはしないですよね。マイクパフォーマンスや大げさなジェスチャーで、お客さんに気持ちよく分かりやすく楽しんでもらうために全力を尽くすじゃないですか。ジョジョのバトルもそれと同じで、これから自分が何をするつもりなのか、結果どうなったのかをちゃんと提示しながら戦うことで、むしろそれが旨味になるんです。アニメ的なケレン味やスピード感を優先してそこをスポイルしてしまうと、それはジョジョのバトルではなくなってしまうし、魅力も失われてしまう。プロレスに例えたのは、それが理由です」(津田)。

ジョジョにおけるバトル描写とは、長セリフのテンポや韻、アクション、キャラクター性のすべてが渾然一体となって生まれるグルーヴ感こそが醍醐味だと津田は分析しており、アニメはそれをベースに作られている。

場面カット1
4th Season第1話「黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)」より
ふつうならば考えられない言動によって異常性を演出するのもジョジョバトルの醍醐味

取材・文/岡本大介

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