スタッフ&キャスト陣の
「ジョジョ愛」の集大成!
話題をさらった主題歌から
過酷なアフレコ現場まで

最初に決まった主題歌は
「ROUNDABOUT」

1stシーズンのEDテーマ「ROUNDABOUT」は、オリジナルの主題歌を作ろうと動いていたアニメサイドと荒木飛呂彦とのやり取りのなかで決まった楽曲だという。

音楽を担当するワーナー ブラザース ジャパンの大森啓幸プロデューサーは、当時のやり取りについて「最初はOPテーマを決めようと思って、ロックをベースにいくつかのサンプル曲を荒木先生に提案してみたんです。でも先生のイメージとは方向性が違っていて、逆にイメージに近い曲はなんですか?と伺ったところ、提示されたのがこの「ROUNDABOUT」でした。でもこういったプログレ(プログレッシブ・ロック)をオリジナル曲で作るのはかなり難しいので、それならいっそのこと「ROUNDABOUT」の使用許諾を得てそのまま使おうとなったんです」と振り返る。

その後、OPテーマよりもEDテーマのほうがふさわしいのではないかという大森の発案からEDテーマとなり、以降のEDテーマの基本路線も固まった。EDテーマは荒木飛呂彦が「執筆当時によく聴いていた曲」、あるいは「部のイメージに近い曲」というコンセプトで統一されている。

イエスの直撃世代である音響監督の岩浪美和は、「ROUNDABOUT」がEDテーマに決まったことを知って驚くと同時に、なんとか劇伴として使用できないかと考え、監督の津田尚克に「どこからでもEDを流せるようにED映像を作ってほしい」と強く提案。その結果、1stシーズンは「ROUNDABOUT」が劇伴として流れ、そのままEDテーマへと繋がっていく特殊なスタイルとなった。大森曰く「1stシーズンが終わった時、岩浪さんが僕に「楽曲の全部の箇所を入れたから」と嬉しそうに報告してくれました(笑)」とのことで、8分半もある原曲を無駄にせずに使い切る結果となった。

場面カット1

OPテーマは70年代風アニソン

オシャレな洋楽が揃ったEDテーマとは打って変わり、OPテーマは男くさい70年代風アニソンに決定。記念すべき初代OPテーマ「ジョジョ 〜その血の運命〜」を作曲したのは、ベテランアニソン作曲家の田中公平。「田中さんに依頼にいった時は「大森君、僕のところにもって来たのはね、正解だよ」って言われました(笑)」(大森)。この楽曲をきっかけとして、OPテーマは各部のテイストにマッチしたオリジナルの邦楽アニソンに定着。また正規OPテーマのほかにも、2ndシーズン「スターダストクルセイダース」では「アク役◇協奏曲」というボインゴ絡みの特殊OPテーマが制作されるなど、中毒性の高いバラエティ豊かな名曲が数多く誕生した。

またOPで大きな話題となったのが、ストーリーの進行に合わせて変化していくアニメーション。なかでも2ndシーズン第47話「DIOの世界 その3」では、ディオが「ザ・ワールド」の能力で時を止める演出が取り入れられ、衝撃を受けたファンも多かったことだろう。この仕掛けについて大森は「OP映像を担当した神風動画さんからのアイデアです。社長の水崎淳平さんがプレゼン時に「DIOなんで、9秒間止めればいいんです」って突然言い出しまして(笑)」と、神風動画による自主演出であったことを打ち明けた。

この演出をきっかけに、3rdシーズン「ダイヤモンドは砕けない」終盤には吉良吉影のバイツァ・ダストが発動してOP映像が逆再生する演出を施した「バイツァ・ダスト版OP」が作られ、さらに4thシーズン「黄金の風」ではディアボロのキング・クリムゾンの能力を描いた「Diavolo Ver.」、ジョルノのゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力が描かれた「Giorno Ver.」とへと受け継がれていった。この一連のOPの特殊演出について津田は「第3部の仕掛けのおかげで、もう後戻りができなくなったんです(笑)」と苦笑い。

場面カット2

大森プロデューサーによる劇伴援護

本編の劇伴においても多くの専用劇伴が制作されているのがジョジョアニメの特徴。これは製作プロデューサーである大森が、音楽プロデューサーも兼任しているからこそできたことだ。「シナリオ段階から参加しているので、音楽面でもいろいろと先回りして用意することができたんです。少しでも現場への援護射撃になればいいという思いでした」(大森)。例えば大森が注力した1stシーズンの第3話「ディオとの青春」では、先行して描かれた絵コンテに合わせて専用劇伴を長回しするなど、劇場映画の制作スタイルでフィルムを盛り上げた。

なかでも話題となったのが、4thシーズン「黄金の風」第7話「セックス・ピストルズ登場 その1」で描かれた、およそ40秒にも及ぶダンスシーン。これはイタリアでのロケハン中、テンションが上がっていた木村がノリで大森に発注したもので、当然ながらこのダンスシーンの絵コンテと演出は木村が担当することとなった。「自分で発注したことすら忘れていて、こんなに長く踊るの?って(笑)。原作では4コマ程度しか描かれていないので、ほかはすべて自分で埋めないといけないんですが、僕がダンスに明るくないので、詳しい友人に原作のコマを見てもらって。どうもマイケル・ジャクソンのダンスに似ているということになり、それから1ヶ月くらい彼のライブ映像やMVなどをチェックしまくって、それでようやく出来上がりました」(木村)。

場面カット3
4th Season第7話
「セックス・ピストルズ登場 その①」より

過酷なアフレコ現場のようす

キャスティングについては、知名度や人気といった要素はいっさい度外視したうえで、純粋にキャラクターに合うかどうかでオーディションを実施。津田はジョジョ声優の条件として「音圧があって上手」であることを最優先としつつ、「引き出しがあること」や「滑舌がいいこと」も加味したと言う。ジョジョの芝居は限界まで声を張るシーンも多く、「ダイヤモンドは砕けない」でシリーズディレクターを務めた加藤敏幸は「1stシーズンのときから『ジョジョ』のアフレコはとにかく大変です。つねに最大級の熱量と声量を要求せざるを得ず、このあとにもう1本収録があったらどうするんだろうと、勝手ながらこちらが心配になってしまうほど。キャストの皆さんにはいつも「ごめんなさい」って思っていました」と、アフレコのようすを振り返る。

しかしそんな過酷な現場であるにも関わらず、オーディションにはたくさんのジョジョ好きなキャストが集まり、必然的にブース内にはジョジョ好きなキャストたちが増えていった。初参加で戸惑うキャストに対して「ジョジョのセリフは小さな"ッ"も読むんです」など、率先してレクチャーする光景も見られたという。笠間寿高プロデューサーは「原作のセリフ回しを一言一句変えずにやるというのが当初のテーマだったので、スタッフサイドとしてはとても助かりました」と、キャスト陣への感謝を口にする。実際、有名な花京院典明の「レロレロ」も、しっかり17回で収録されている(第9話「黄の節制(イエローテンパランス)」)。

「スターダストクルセイダース」のシリーズディレクターを務めた鈴木健一は、初収録のためスタジオへやってきた花京院役の平川大輔に「今からレロレロを練習しておいて」と最初に頼んでいたというから、そのこだわりは半端なものではない。もちろん、これらのオーダーにパーフェクトな芝居で返すキャスト陣もまた、ジョジョ愛で溢れているといえよう。

場面カット4
2nd Season第9話
「黄の節制(イエローテンパランス)」より

コマ単位での最終調整で、
最高のリズム感を演出

「スターダストクルセイダース」以降の試みとして、再カッティングという手法も取り入れている。これは最初のカッティングで30秒ほど余裕を持たせた編集でアフレコに臨み、その後セリフとセリフの間にあるわずか数コマを細かくカットしていきながら最終調整をするというもの。これによりさらに気持ちの良いリズム感を出すことができ、長セリフの多いシーンでもダレることがないテンポを作り出すことができる。こうしたじつに細かい創意工夫の積み重ねが、ジョジョらしい気持ち良さに繋がっているのかもしれない。

「ジョジョアニメ」とは、
なんだったのか?

計4回に及んだプロダクションノートはいかがだっただろうか? 企画、シナリオ、映像、音響のすべてのセクションにおいて、強い原作愛とこだわりに溢れた現場であったことがお伝えできたのではないかと思う。さて最後に、「ジョジョアニメ」とはなんだったのか? について触れてみたい。

本稿を執筆するにあたり、今回改めてプロデューサー&ディレクター陣へ取材を行なったが、ジョジョの話になると誰もが一瞬にして少年のような顔付きに戻っていくのがとても印象的だった。アニメーション制作を取り巻く環境や現場は、我々が想像する以上にハードで過酷なもの。約10年近くにも渡り作り上げたその舞台裏では、きっとさまざまな苦悩や人間ドラマが起こったに違いない。それでもなお、ジョジョの話となると一気に少年の顔に戻ってしまうところがジョジョチームのスゴさであり、この顔付きこそが「ジョジョアニメ」のすべてを物語っているように感じた。

最後に、今回取材を行ったスタッフ陣に「自分にとってジョジョアニメとは?」という質問をぶつけてみた。その返答はさまざまだが、なんとも言えぬ"清々しさ"に満ちたものだったので、ここに記しておきたい。

─ 津田尚克
「未熟だった僕に、演出家として必要なもののすべてを教えてもらった作品です」

─ 鈴木健一
「僕の人生を助けてくれた作品。キャリアのうえでも確実にターニングポイントになりました」

─ 加藤敏幸
「演出の視野を広げてくれました。面白ければ、迫力があればなんでもアリなんだと吹っ切れました」

─ 木村泰大
「作っているときは辛くて、終わると寂しい。そんな珍しい作品ですね」

─ 髙橋秀弥
「ジョジョを作った3年間はとても得難い体験で、僕の人生の宝物になりました」

─ 大森啓幸プロデューサー
「長い戦いになると予感していたので、何があっても諦めないことだけは心に誓いました」

─ 笠間寿高プロデューサー
「2ndシーズンが終わった時、スタッフ全員で肩を抱き合いながらわんわん泣いたことを今でも鮮明に覚えています」

取材・文/岡本大介

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