『スティール・ボール・ラン ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『SBR』)を盛り上げるための、スタッフによるリレーインタビューがスタート。第1回は、「英語吹き替え+日本語字幕のススメ」として、英語吹き替え版の吹き替えディレクター、パトリック・サイツ(Patrick Seitz)さんにメールインタビューを実施した。
『ジョジョ』シリーズへの思い入れや、英語のアフレコにおけるこだわりのほか、日本語版をご覧になった方にこそ体験してほしい、「英語吹き替え+日本語字幕のススメ」についてうかがった。
『SBR』の配信が始まり、すでにジョニィ・ジョースターやジャイロ・ツェペリの活躍をご覧になった視聴者も多いことだと思う。
日本語版キャストによる芝居は、本作を楽しむうえでの大きな魅力のひとつ。ジョニィやジャイロをはじめとするキャラクターたちの個性は、熱量の高い芝居によって浮かび上っていることは言うまでもない。
そのうえで、もうひとつの鑑賞方法として提案したいのが、「英語吹き替え+日本語字幕」だ。
スティール・ボール・ランは、19世紀末のアメリカ大陸を舞台に、サンディエゴからニューヨークを目指す大陸横断レース。西部開拓の熱気、荒野を駆ける馬、各地から集まったくせ者たち……。そうした『SBR』ならではの世界を英語音声で味わうと、まるでアメリカの映画やドラマを観ているような感覚になるのだ。
英語吹き替え版のダビングディレクター、キャスティングディレクター、そしてダビング・クリエイティブ・リードを務めたのが、パトリック・サイツ(Patrick Seitz)さんだ。『ジョジョ』シリーズで、長年にわたりディオ・ブランドーを演じてきた方でもある。
パトリック:
私は何年も前に、『ファントムブラッド』と『戦闘潮流』の英語吹き替えで、少しだけ脚本翻案と吹き替えのディレクターの代役を担当する機会がありました。そのため、『SBR』 1st STAGEの英語版で、翻案、キャスティング、演出に参加できる機会は、ある意味で“家に帰ってきた”ように感じられました。
その後も、さまざまなシーズンでディオを演じたことで、『ジョジョの奇妙な冒険』を数多く経験してきました。だからこそ、今回『SBR』において、こうした制作上の立場で関わることには大きな挑戦があり、私はそれに興奮していました。
私にとって非常になじみ深いものでありながら、同時にとても新しく、新鮮なものでもあります。
――彼はディオについて、こう語る。
パトリック:ディオについて言えば、正直なところ、私は彼のジョースター家に対する根深い憎しみと、権力への揺るぎない渇望をとても高く評価しています。深く掘り下げれば救いのある性質を持つ敵役がいるのも、それはそれでよいことです。しかし、ときには、ただ“とても恐ろしい存在であること”に非常に優れたキャラクターを見たくなるものです。そしてディオは、悪役として卓越しています。
彼は「世代を超えたヘイター」と表現されているのを聞いたことがありますが、それは的確だと思います。ある意味では、シェイクスピアの『オセロー』に登場するイアーゴーを思い出させます。私はまだイアーゴーを演じたことはありませんが、俳優としての“いつか演じたい役リスト”には入っています。
ディオが石仮面をかぶり、人間性を拒絶するとき、彼は一切ためらいません。ひどいことではありますが、その覚悟には敬意を抱いています
――スタッフとして、役者として、長らく英語版『ジョジョ』シリーズに関わってきたパトリックさん。単刀直入に、「英語吹き替え+日本語字幕のススメ」について尋ねてみた。
パトリック:私たちの吹き替えを日本のファンの皆さんに体験していただけるなら、私も、そして『SBR』英語版のキャスト、スタッフ全員も、大変光栄に思います。確かにそれは異なる体験です。しかし、1st STAGEでジャイロが森を切り抜けながらも、廃教会の同じゴールラインを目指して走っているように、私たちは同じ場所へ向かっています

――英語吹き替え版は、日本語版とはまた違った音の体験ができる。しかし、目指しているゴールは同じ。パトリックさんの言葉からは、英語版ならではの表現を追求しながらも、原作とアニメに並々ならぬ敬意を示していることが伝わってくる。その彼が特に意識したのは、『SBR』の「場所と時代」だという。
パトリック:『SBR』はアメリカの過去を舞台にしているため、英語吹き替えでは、その場所と時代にしっかり踏み込める、楽しく、しかも正当性のある機会が与えられていると感じています。
登場人物たちの話し方ひとつをとっても、サンドマンのように要点をまっすぐに言う人物もいれば、スティーブン・スティールやレースアナウンサーのように、バロック的な大仰さをもって言葉を使う人物もいます。
――英語吹き替え版の面白さは、単に「舞台がアメリカだから英語が合う」というだけではない。人物ごとに異なる語り口、テンポが、キャラクターの出自や性格を浮かび上がらせていくところにあるのだ。
――では、1st STAGEの中心にいる、ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリについてはどうだろうか。ジョニィ役にはデイマン・ミルズさん、ジャイロ役にはカイジ・タンさんが起用された。パトリックさんは、最初からふたりを第一候補と決めていたわけではないという。キャスティング・パートナーのクリス・ペロッティさんとともに、何百もの演技を聴いたうえで、役にふさわしい声と芝居を探っていった。ジョニィとデイマンさんについて、こう語る。
パトリック:デイマンは、ジョニィの強情で激しやすい性質を表現するのがとても優れています。それは、ジョニィが若くしてすでに経験してきた、目がくらむほどの高揚と落ち込みの副産物でもあります。ジョニィの置かれた状況は彼に固有の、とても特殊なものです。しかし、デイマンが感情をむき出しにして演じることで、それはある種、普遍的なものに感じられます。そして比喩的にも文字通りにも、私たちをその旅路へ連れていってくれるのです。
――ジョニィは、酸いも甘いも味わってきた人物だ。挫折を知り、怒りを抱きながらも、なお前へ前へと進もうとする。その感情は、ともすればあまりに痛々しく、視聴者の心を遠ざけてしまうかもしれない。だが、デイマンさんの芝居は、その痛みをむき出しにしながらも、観客が見届けたくなる人物として成立させているというのだ。
パトリック:ジョニィのようなキャラクターは、あまり巧みでない俳優が演じれば、作為的だったり、刺々しかったりと、そのように受け止められかねません。しかし、デイマンが中心にいることで、彼のために最良のことが起きてほしいと思えるし、その旅を最後まで見届けたいと思えるのです。

――一方、ジャイロはジョニィとは対照的な人物として描かれている。感情が前面に出るジョニィに対し、ジャイロは多くを語らない。余裕があり、相手をはぐらかし、時に威圧する。パトリックさんは、カイジ・タンさんの演技について、内面をすべて見せないままキャラクターの奥行きを感じさせる点を高く評価している。
パトリック:カイジは、ジャイロとしてニュアンスを出し、自分の手札を簡単には見せない演技が非常にうまい。彼はジョニィよりもずっとコントロールされた人物ですが、『SBR』 1st STAGEだけを見ても、ジャイロが茶目っ気を見せたり、威圧的だったり、突き放したり、支えになったり、競争心を見せたりする姿が描かれています。
――ジャイロは、すべてを説明しなくても、その奥にある経験や意思が感じられる人物だ。ジョニィとのバランスは、そのうえに成り立っている。
パトリック:ジャイロの声は、経験の浅い人が演じると、作為的あるいは単調に感じられかねないものです。しかしカイジの場合、私たちはそのエンジンが回転を上げているのを聞き取り、その車がいつでも動き出せる状態にあることを知るのです。

――さて、英語吹き替え版の制作において、パトリックさんが特に大切にしているものはなんなのだろうか。
パトリック:幸いなことに、ジョニィやジャイロのようなキャラクターは、それ自体が非常に魅力的です。そのため、『SBR』 1st STAGEの収録中、デイマンやカイジに対して、シーンに自然に備わっているもの以上のことをさせるために、私がわざわざ大きく踏み込む必要はほとんどありませんでした。
荒木先生がキャラクターを創造するうえで注いだ思考と配慮、そしてdavid Productionが漫画を映像へと立ち上げるために行った素晴らしい仕事。その両方がありました。だからこそ私は、私たちの工程より上流ですでになされていた大きな努力に敬意を払い、それを自分の能力の限りローカライズすることに集中できたのだと思います。
――英語吹き替えは、原作や日本語版とは別のものを制作するわけではない。むしろ、同じ物語を別の角度から照らし出し、作品の持つ空気や土地性、言葉のリズムを新たに感じさせるものなのだ。
制作裏話として、このようなことも語ってくれた。
パトリック:キャストとの印象的な瞬間をいくつか挙げるなら、まず、スティーブン・スティールが自信満々のプロモーターから泣き崩れる状態へと変わる場面で、彼の声を担当したジェイミソン・プライスと一緒に笑ったことがあります。
それから、ポコロコ役のセドリック・L・ウィリアムズが表現するものすべてが気に入ったこと。レースアナウンサー役のデイヴ・B・ミッチェルが持ち込んだエネルギーに驚かされたこと。
(※編注:ディエゴ・ブランドー役の)ダミアン・ハースの「It’s called technique, you troglodyte」という読みを聞いて笑みがこぼれ、自分はディオのトーチを正しい相手に渡したのだとわかったこと。
そして、カイジとデイマンのアフレコ中に、特定のセリフに挑んでいたにせよ、全体として私たちは“ボール”について、かなり頻繁に話していたことに気づいたことです。

――最後に、パトリックさんは『ジョジョ』シリーズの魅力をこう表現してくれた。
パトリック:私にとって『ジョジョ』シリーズは、美しい人々が、私たちの世界を高い熱量と高いコンセプトで描き変えたような舞台で、かっこいいことをしていく、引き込まれるアクション満載の物語です。スタイリッシュで、残酷で、考えさせられる。そして、いつも最高の意味で奇妙なのです。
――その「奇妙さ」は、言語が変わっても失われない。むしろ、別の言語で観ることで、19世紀アメリカを駆け抜けるレースの緊張感や、登場人物たちの言葉の質感が、また違った形で浮かび上がってくるかもしれない。
日本語音声でじっくり味わった人にも、これから初めて『SBR』に触れる人にも、一度「英語吹き替え+日本語字幕」、あるいは現在Netflixで視聴可能なほかの言語を試してみてほしい。同じ物語でありながら、新鮮な体験が得られるはずだ。